本記事は、吉野 創氏の著書『自分ものさし仕事術』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

Men run in a thousand difficulties
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楽しもうとするほど人生は充実し楽しくなる

私自身、コンサルティングファームに勤めていた頃、まさに他責にして誤魔化していた結果、困難な壁にぶち当たった、という実体験があります。

コンサルタントの仕事では、さまざまな経験をしましたが、中でも痛感したのは、人は理論では動かない、ということでした。

私は、入社当初は経営のことはまったくわからない状態でしたから、新人として、とにかく「経営に関わる知識」を必死で身につけようと、寝る間を惜しんで本を読んだり先輩コンサルから学んだりしていました。

私はもともと、人と議論したり、感情的にぶつかり合ったりすることが苦手で、それをなるべく避けたいという意識がありました。だから、経営理論を身につけて「理論理屈で正解を主張して、人を動かした方が楽だ」と思っていたのです。

しかし、実際には、経営理論だけでは人は動かなかったのです。

それでも、計画通りに動かしていかなければ業績は改善しませんから、「やらない人は評価を下げるぞ」というように「管理」を強化することになりました。しかしながら、強化するほどに、現場の人の心は離れていきます。このような状況では、当然うまくいくはずもありません。恥ずかしい話ですが、業績改善ができなかったケースもありました。

そんな自分自身でしたから、やがて支社長に抜擢はされたものの、自分の支社のマネジメントも、やはり理論理屈で「正しさ」を押しつけて「管理」する姿勢でした。

当然、こちらもうまくいくはずがなく……結局支社長も「降格」となってしまったわけです。

そして私は、コンサルタントをやめようと思いました。「自分には向いていない」と。悔しさもありましたが、それはつまり「他責」にして「自己正当化」をして逃げようとしていたのです。

しかし、その時に転機が訪れます。

ある先輩が私に「お前、やめようと思っているんだろう?」と言ったのです。

まさに図星です。私はその時、もはや開き直って、「そうですよ、僕にはこの仕事は向いていないんですから」と言いました。

でも、その先輩はこう言ってくれました。

「お前は人のせいにして、結局、人から逃げようとしているだけだろう?」

「理論理屈はいいから、もっと人と向きあえ!」

実はなんとなく、私も気づいていたんです。本当の原因は「人との感情的なぶつかり合い、軋轢から逃げたい自分自身の心にある」ということを。でも、それから逃げていました。理論理屈で人が動いてくれた方が楽だからです。

その先輩は、「楽な方に逃げたい」という私の気持ちを見透かしていたのか、「お前は、コンサルの仕事は半分にしろ。後の半分は合宿研修の講師をやれ!」と、本気で提案をしてくれました。

そして、先輩の本気を感じた私は、そこから支社長降格になった自分を受け入れて、合宿研修の講師として「人と向きあわざるを得ない状況」をつくることにしたのです。

その合宿研修は、「人間としてどう在るか」「人間としてどう生きるのか」といったことがテーマでしたから、一切の理論理屈は通用しません。その前に、まず自分という人間の在り方が試されるのです。

講師として講義を担当しながらも、実は「自分の未熟さ、至らなさ」を突きつけられる日々が待っていたのです。

これは、今まで変にプライドだけは高かった自分にとっては最も苦しい経験でした。一番苦手なことで、毎回、自分の無力さを突きつけられるのですから。

そして、受講生さんを教え導くような力もない自分を痛感しながらも、どこにも逃げ場はありません。受講生さんと人として正面から向きあいながら、実は「今まで楽な方に逃げていた自分」と向きあわざるを得ない日々を過ごすことになりました。

講師として受講生さんの前に立ちながらも、「自分はこの程度の人間なんだ」という現実を突きつけられる日々の中で、ある時「楽な方に逃げようとしていた自分」を認め、それを隠すのではなくて、曝け出してみよう、と思い至りました。

そうやって弱い自分も自覚すると、不思議と「それでも、こんな人間に成長したい」という思いも素直に受講生さんに話していけることに気づいたのです。

これは自分の内面に起きた、不思議な体験でした。

そして、そういう自分になって心を開いていくと、今まで頑なだった受講生さんでも、次第に共感してくれるようになっていきました。そして、「私も実はこういう自分になりたい」と、本当の思いを話してくれるようになっていったのです。

やがて、合宿研修を一緒に過ごす中で、受講生さんの成長に触れることが増えていきました。そして、研修の最後には、これからの自分の目標や、目指す人間像への決意を語ってくれる受講生さんの成長ぶりに、心から感動している自分がいました。

「こんな自分でも、この合宿を逃げずにやりきってよかった」。

一番辛いことを乗り越えたら、なんとこれが、今まで味わったことがない「楽しい経験」に変わっていたのです。

そこで経験して身をもって学んだことが、今の自分の糧になっています。

あの時、先輩のアドバイスからも逃げて、退職という「楽」な道を選択していたら、今の自分はありません。この、困難の先にある「感動」や本当の「楽しさ」を味わうことがないまま、まったく違う人生を歩んでいたと思います。

私はこのような実体験から、「楽をしようとする自分」を常に自覚して、意識的に「困難を乗り越えた先にある、感動や充実感を得られる」道を選択しよう、と思うように変わっていきました。

「楽をしようとするほど人生は難しくなり、楽しもうとするほど人生は充実し楽しくなる」

このような教訓を、身をもって学ぶことができました。

そしてこの教訓は、私の「自分理念」のベースとなっています。

楽をすることには、無意識に流されていくものです。しかし、困難を乗り越えて本当に「楽しむ」ためには、意識して取り組む努力が必要です。

そのことを教えてくれた先輩には、今でも心から感謝しています。

自分ものさし仕事術
吉野 創(よしの・はじめ)
株式会社トゥルーチームコンサルティング 代表取締役/一般社団法人 自走式組織協会 代表理事 北九州大学法学部卒業後、ジーンズメーカー大手EDWINで営業に従事。その後、経営コンサルティングファームにおいて約300社の財務分析と管理会計の構築ノウハウを習得。マネジメント責任者、支社長などを歴任し、コンサルタントの育成にも携わる。人や組織に、さらに深く関わる合宿や研修を延べ5,000人へ実施。社員が自発的に動く成長ノウハウを見出し、体系化。 2014年「株式会社トゥルーチームコンサルティング」を設立。指示なしでも社員が動く組織づくりは、経営者の組織と業績の悩みを同時解決する手法として公式認定され、「自走式組織®」として2018年に商標登録。100社以上の「自走式組織®」を生み出し、クライアントは3年で売上2.1倍、経常利益4.3倍、わずか1年で粗利益率7.9%改善や、離職率を0%にするなど多くの成功事例を持つ。 自身の経験から、特にマネジメント層の思いに寄り添う人間味溢れる支援が強み。業績がアップするだけでなく、働く社員のやりがいと一体感のある理想の組織になったと多くの経営者から厚い信頼を受けている。 著書に『売上を2倍にする 指示なしで動くチームの作り方』(ぱる出版)がある。
自分ものさし仕事術
  1. 「『楽』な働き方」って何だろう
  2. 「ミッション」というのは、つまり「志」
  3. 楽しもうとするほど人生は充実し楽しくなる
  4. ミスを恐れて何もしない人生にどれほどの価値があるのか
  5. 「自分理念」をつくる3つの発想法
  6. 行く末(未来・ビジョン)からの発想
  7. 人は最後は人間性で判断され、選ばれていく
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