この記事は2024年4月19日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「トルコ統一地方選で与党惨敗、エルドアン政権の次の一手とは」を一部編集し、転載したものです。


トルコ統一地方選で与党惨敗、エルドアン政権の次の一手とは
(画像=seqoya/stock.adobe.com)

(トルコ統計局「消費者物価指数」ほか)

3月31日に投開票が行われたトルコの統一地方選挙では、エルドアン大統領が率いる与党の公正発展党(AKP)が敗北した。昨年の大統領選で、野党統一候補との決選投票の末に辛勝して政権を維持したエルドアン政権にとって、今回の統一地方選は“信任投票”の意味合いがあり、その行方に関心が寄せられていた。

前回の2019年統一地方選では、最大都市イスタンブールや首都アンカラの市長を最大野党の共和人民党(CHP)に奪取されるなど、大都市部を中心に政権や与党AKPに対する支持率低下の動きも見られた。とりわけイスタンブール市長は、エルドアン大統領がAKP党首、首相、大統領と政治キャリアを駆け上がるきっかけとなった職位である。そのため、エルドアン大統領は、今回の統一地方選でイスタンブール市長選を最も重視してきた。

しかし、今回も、イスタンブール市長選とアンカラ市長選共に野党・CHPが勝利した。さらに、トルコ全土の得票率も、エルドアン大統領の下で行われた選挙で初めてAKPが第1党の座を失うなど、歴史的惨敗を喫した。

統一地方選での与党敗北は、エルドアン政権の下で、政教分離の問題や実権型大統領制への移行などを巡って国民を二分する政治手法を採った結果、有権者の間にそうした手法への“うんざり感”が出たことが影響したとされる。また、パレスチナ問題への対応を巡り、敬虔なイスラム教徒を中心にエルドアン政権に対する離反の動きが広がっているとの見方もあり、今後の政権運営は困難の度合いを増すことは必至である。

トルコではここ数年「金利の敵」を自任するエルドアン政権の下、インフレにもかかわらず低金利政策を推し進めるなど、経済学の定石では考えられない政策運営がなされてきた。結果として、商品高にリラ安も重なるかたちでインフレが上振れし、国民生活に深刻な悪影響が出ている。

なお、昨年の大統領選後は、預金保護制度の解除や政策金利の引き上げといった正統的な政策運営にかじを切るなど、失墜した金融市場からの信認回復に取り組む動きを見せた。しかし、その後もリラ安に歯止めが掛からずインフレ率は再び加速しており、国民生活は苦境に立たされている(図表)。

仮に、現在の正統的な政策運営が一段と強化されれば、将来的にリラ相場の下落に歯止めが掛かる可能性がある。一方、再び「インフレは高金利が原因」という因果が倒錯した考えの下で中央銀行が利下げを迫られれば、リラ相場は混迷の度合いを増してインフレ率上昇は必至である。エルドアン政権が、次にいかなる一手を放とうとしているのかに注目したい。 

トルコ統一地方選で与党惨敗、エルドアン政権の次の一手とは
(画像=きんざいOnline)

第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト/西濵 徹
週刊金融財政事情 2024年4月23日号